武帝問達磨


1500年ぐらい昔の話です。
中国の梁という国の初代皇帝となった武帝は、熱心に仏教を学びました。
皇帝自ら「般若経」の講義をしたり、多数の寺院を建てて僧侶を養成したりと、
宗教活動にもとても熱心であったといいます。

ある日のこと、皇帝が熱心な仏教の信者であるという噂を聞きつけて、
遠くペルシャ地方からヒゲ面の老僧が面会を求めてきました。

彼こそが、かの達磨大師だったのです。彼はお釈迦さまの死後1000年経ったインドで
仏教がヒンズー教などに押されてダメダメになってしまったのを痛感し、
もうインドは諦めて新天地を求めて中国までやってきたのでした。

仏教の信心なら誰にも負けないと自負する武帝と、仏教の真髄を伝承できる人材を求めてやまない
正統伝承者達磨との感動の対面です。



武帝は大師に問いました。。
 「大師よ、私は仏教のお寺をたくさん建てて、お坊さんを大勢養成しました。
  これは、どんな功徳があることになるのでしょうか?」

達磨大師はポツリと言いました。
 「なんの功徳もありゃしないよ。」

褒めてもらえると思っていた武帝は愕然として思わず尋ねました。
  「ええっ!功徳がない?じゃあお尋ねしますが、仏教の根幹となるものとはいったいなんなのでしょうか?」

達磨大師はまたもやぶっきらぼうに言いました。
  「がらりとしたもんだ。何もない。もちろん「聖」とかもありゃしない。」

武帝はすっかりわけがわからなくなってしまいましたが、なんとか最後の質問を搾り出しました。
 「では、あなたはいったい何者ですか?」

達磨大師は吐き捨てるように言いました。
  「しらない。」

ほとんど会話が成立しなかったので、達磨大師はそのまま辞去すると、その足で長江を渡り、
西に向かって引き返してしまいました。



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